社会連携拠点づくりで大事にしたのは、誰でも入れる緩さ

 

まずは、社会連携推進検討委員会や1/Mが生まれた経緯について教えてください。

北崎

ムサビの “社会とつながる” 機能は、もともとは東京ミッドタウン・デザインハブ内にあった「デザイン・ラウンジ」が担っていました。その機能は2019年に開設した市ヶ谷キャンパスに移され、デザイン・ラウンジはクローズ。新規一転、市ヶ谷キャンパス内に新たな社会連携拠点をつくることを前提に、ムサビ全体の社会連携について考える委員会の委員長をやらないかと誘われたのが2023年のことです。それが「社会連携推進検討委員会」だったわけですね。

私はオランダのデルフト工科大学の大学院に所属していたときから、パーティシパトリーデザイン(Participatory Design=参加型デザイン)と呼ばれる分野について実践研究していますので、社会連携はとても興味がある領域でした。委員長がどういう仕事なのかはよくわかっていませんでしたが(笑)「まあいいか」と思ってお引き受けしました。

 

ご自身の研究テーと、大学の社会連携のありようを見ていくこと、双方をどのように接続させていきたいと考えたのでしょうか

北崎

オランダや、そのあとに移住して研究を続けたスイスでもそうだったのですが、近隣住民が大学の研究や活動に積極的に参加するんですよ。たとえばある研究で、60〜70代ぐらいの人って、どういうものに反応するんだろう」と大学で話したら、周りの人が「ちょっと待ってMasako。私、人集められるわよ」と言うんです。要するに「大学の活動に参加したいご近所さんリスト」みたいなものが存在するんですよ。

それらのプロジェクトを通して、たくさんの住民のお家に伺うことができました。調査目的もありましたが、もう本当に、お茶をしに行くような感覚で。そういういろんな経験があったので、社会連携推進検討委員会の活動を通してムサビでも同じようなことができたらと考えていました。

北崎允子先生
 

た、いわゆる「リビングラボ」のようなこともオランダでは活発でした。日本だと、「よし、リビングラボやるぞ!」と宣言して資金を確保するような流れだと思いますが、オランダでは自然発生的にリビングラボが生まれていく。「私、場所貸すよ」とか「じゃあ私はお茶持ってくるね」という感じで、そういうことを楽しむ文化が根づいているんです

スイスでは、モノの貸し借りをする「シェアリングエコノミー」が馴染んでいて、みんな自分が貸し出せるアイテムの絵が描かれたシールを自宅のポストに貼っていました。そういうものがボトムアップで発生する状況がとてもおもしろかったし、とても幸せでしたね。日本では組織のなかだけで閉じることが多いなか、ムサビではそんな “ボトムアップの社会連携” ができるイメージを持っていました。

 

そうした考えを1/Mのコンセプトのなかに落とし込んでいったのでしょうか

北崎

委員会で話し合うなかで出たのは、「デザイン・ラウンジはアウトプットされるものもきちんとデザインされていてかっこいい。も、ボトムアップを望むなら若干の緩さも必要だよね」という話です。そこで1/Mのコンセプトに落とし込んだのは、“生モノを生のまま出す” ということ。成果物だけでなく、途中段階のものや授業そのものも見せていくことにしました。

そうすることで、じわじわと人が寄ってきてくれるんじゃないのかなと。立派なゲートをつくって「さあ、お入りください!」ではなくて、「なんかここ入れんじゃん」と気軽に見ていってもらえるような場所にできると、ボトムアップ的なものが起きやすいのではないかと考えました。

社会連携という領域にある、まだ見つかっていないもの

 

河野さんはいつごろから関わっているのでしょうか?

河野

2024年度からですね。

北崎

委員会で1年間、いろいろと揉んだ結果、キュレーターが必要だということになり、河野さんに来てもらったんです

 

河野さんは1/Mの開設にあたり、どのようなことに貢献したいと考えましたか?

河野

私はムサビの視覚伝達デザイン学科(以下「視デ」出身なのですが、在学中にそれこそ超ボトムアップ型の社会連携のような活動をしていて、そこから人生が大きく変わっていったんです。大学3年次の授業をきっかけに、小平市内の小学校の「総合的な学習の時間」で、学校周辺の環境を可視化する地図をつくるプロジェクトに1年半ぐらい参加しました。その活動を通してまちの人と出会い、私たちのことを大事にしてくれる小平市の方がたくさんたくさんいらっしゃることを知って、「これまで自分が見ていた世界は狭かったんだ」「私がデザインをしたい相手って、実はこの地域にいたんだ」と実感しました。

そういう経験が原体験としてありましたし、そこから年を重ねたいま、いろいろな社会連携活動がムサビで行われていることが、なんだかすごくうれしかったんです。1/Mを、ちょっとカオスでありながら、そこから新しいことが生まれてくような場にしたいと思って、喜んで参画しました。

1/Mでキュレーターを務める河野奈保子さん
 

先ほど “生モノ”、つまりプロセスを見せるようなアプローチが1/Mの軸になっていったとおっしゃっていましたが、それを象徴するようなエピソードとして、ロゴマークのお話があると思います。複数ある案のなかから、いちばん攻めた案が採用されたと聞きました。

河野

そうなんです。A案、B案、C案があって、A案、B案はすごくコンセプトからもイメージしやすいと思い、C案はチャレンジングな位置づけだなと考えていましたが、委員会の審議で最終的にC案になりました。

左からA案、B案、C案
デザイン:八木彩(ARENCE Inc.)https://arence.jp/
北崎

最初に見たときは、A案がすばらしいと思いました。でもB案もいいね、捨てがたいねって。そのあとC案が出てきたときに、「ん?」(笑)。当時は選んだ理由をそれほど言語化して認識していたわけではないのですが、やはり、思ってもみない結末を見たいような気持ちがみんなのなかにあったのだと思います

河野

そういう雰囲気でしたよね。せっかく新しいことをするのだからって。

北崎

「社会連携」って本当に広い言葉ですし、いろんな意味をそこに付け加えるべきだと思っていたので、「1」「M」が交わりつつ、外形が変わっていくC案がコンセプトにぴったりだなと感じたんですよね。大学が街のなかにある以上、地域とはなにかしらの関わりがある。その意味や意義、いま見つかってないようななにかを見つけていきたいという気持ちがあったのかなと思います

資源を持ち寄ってつくる新しいCOMMONS

 

2024年11月、1/Mのオープン記念展としてNEW COMMONS展が開催されました。ムサビの近年の社会連携活動を、プロセスも交えながらまさに “生モノ” として紹介するというもの。河野さんはキュレーターとして展示をつくっていきましたが、多種多様な社会連携活動をひとつの場で見せるというのは、やはりチャレンジングなことだったのでしょうか?

河野

そうですね。まず、どういう活動が学内にあるのかを把握するために、先生方に突撃してヒアリングを進めていきました。最終的に展示したのは18プロジェクトですが、ヒアリングはそれ以上のプログラムに対して行いました。

2、3カ月間で一気に進めたそのヒアリングが、とても楽しくて。私が感じた「ムサビってこんな幅広いんだ」「ほかの学科はこういうことをやっていたんだ」ということを、展示を通して内外の人にも伝えたいと思いました。どういうテーマでどのようにつくっていくかはチームで徐々に形にしていきましたが、その始点としてまずは「話を聞く」ことが重要だったと思います

 

プロジェクトの内容はバラバラで、それぞれにおもしろい。展示ではそれらをひとつの「ムサビの社会連携」として提示するのではなく、バラバラのままで見せる形をとったと思います

河野

い、そうなんです。18のプロジェクトを総覧して、「この活動はあっちの活動と似てるな」「専門性が違うとやっぱりアプローチも違うな」と、プロジェクト同士を比較するような視点も生まれるような展示を目指しました。

NEW COMMONS展の会場風景
 

「NEW COMMONS」というタイトルはどのように決まったのでしょうか?

北崎

いろいろ紆余曲折があったと思うんですよね。最初に仮決めしていたのはなんだっけ

河野

「こんにちは市ヶ谷」展ですかね?

北崎

そうだ、「こんにちは市ヶ谷」展。も、ヒアリングの中身を空間のなかでどう見せていくかをブレストしていったときに、いろんな視点やキーワードが出てきて。そのうちに「こんにちは市ヶ谷」という方向性ではなくなっていったんですよね。

河野

全然違う方向に進んでいきました。あらためてタイトル案をみんなで持ち寄ったときに出てきたのは「Co-Creation」「NEW PERSPECTIVE」といった言葉。「新しい視点を獲得する」という話や、プログラムの内容も、そこに参加している学生も連携先も、みんな変化していくという共通認識がありました。そのうえで、「新しい関わりができる」「新しい知恵の共有ができる」ということを、キーワードとして大事に持ちたいねと話しました。

北崎

「COMMONS」が持つ「いろんな人がそれぞれ違う資源を持ち寄って、ひとつのみんなの居場所をつくる」という意味合いに近いというか。社会連携活動というと、学生は学ぶために、教員は教えるために、企業はアイデアをもらうためにそこにいるというケースもあると思いますが、ムサビの場合はそれが本質ではないと考えたんです。学生も教員も企業も対等なアクターであり、一人ひとりの能力を対等に分かち合って新しい場所をつくっていく場こそがCOMMONS。今回の展示は、それにすごく近いよねという話になりました。

ただし、一般的にCOMMONSというと特定の地域に場をつくるイメージですが、ムサビの社会連携活動は全国各地を舞台にしています。さらに、そこには “心の中のCOMMONS” みたいなものも含まれるということで、頭に「NEW」をつけることにしました。そうすることで、COMMONSという概念自体をもう一度考えてみたいという意図もありましたね。

 

成果物だけではなくプロセスを見せるうえで、生まれた課題はありましたか?

河野

プロセスの見せ方は本当に難しくて、いまもずっと考え続けています。過程を経るなかでのいろいろな変化は、単純なビフォー/アフターでは語り切れません。細かな変化が日々あるなかで、どこに点を打っていったら、プロジェクト全体の変化がよりわかるのか。困難だった局面とうまくいった局面、そのでこぼこがあるリアルさを伝えたいし、その生々しさこそが、ムサビらしさであると考えています

会場では、映像や写真も用いながらプロジェクトのプロセスを見せることに注力した

社会連携の意義は、“本物” に会い、本気でぶつかること

 

他大学の社会連携活動を見て思うのは、ムサビ生は「これに参加するとこれが学べます」では動かないということです。参加する動機が作品制作と結びつかないと難しい。だからこそ、結びついたときの瞬発力やエネルギーがそれぞれのプロジェクトにある気がしたのですが、展示を通してあらためてムサビ生の学び方、動き方について感じたことはありますか?

河野

NEW COMMONS展で、長年続いている彫刻学科の野外アートのプロジェクト「小アートサイト」を紹介させていただきました。このプロジェクトがすごいのは、先生が介在せず、学生だけで運営しているところ。しかも形骸的ではなく、メンバーが入れ代わっても学生たちがプロジェクトの意義を自分の言葉で話せるんです。そんなふうにしっかりとした意志がないと、プロジェクトを長く続けるのは難しいんだろうなと感じました。

NEW COMMONS展での「小アートサイト」の展示
北崎

社会連携的なカリキュラムは、先生の研究を学生が部分的に担当することで成り立たせることも可能ですし、そこで学べることもあると思います。でも私が挑戦しているのは、学生自身が “いち個人として動き出す瞬間をどうつくるか” だと思うんですよね。

私が毎年携わっている3年生向けの1年間のプログラムでは、夏休みにみんなで長崎の小浜町に足を運びます。街の人たちは本当にやさしくて、温泉宿を1棟貸し切りにしてくれたり、農家さんが野菜をくれたり、近所の人がお酒をくれたり。昨年2025年は3年目を迎え、だんだん街の人にも浸透してきて、「今年もムサビの学生さんたちが来る」バーのママが待っていてくれたりします

そんなふうに現地の人、つまり “本物” に会うことこそが、社会連携活動の価値だということに最近気がつきました。「社会連携」と言ってしまうと、安い労働力が得られると勘違いした企業さんが声をかけてくることがあります。あるいは、インターンのようなものだと思ってしまう学生や先生がいます。でも、実はそれはまったく違うんです。社会連携活動の醍醐味は、大学の外で大学にはない”本物”に会って、その人たちと本気でぶつかり、心が動き出すこと。1/Mでも、そうしたことを伝えられたらいいですね。

 

最後に、1/Mで今後やりたいことや展望を聞かせてください。

北崎

ひとつは、社会連携活動について紹介するだけでなく、社会連携の場そのものにすることにも挑戦すること。市ヶ谷の人たちとなにかしらの関係性が生まれるようなことに取り組めたらいいなと思っています

もうひとつは、それを鷹の台キャンパスでもやること。鷹の台キャンパスの近隣の人のなかには、ムサビに入ったことがない人も多いんです。だから、お昼の時間にキャンパス内をご案内するようなイベントを開いたらおもしろそうだと思います。それを社会連携という枠組みを使って実施することで、新しい授業のプログラムとして使えるかもしれませんし、課外授業として学生が参加する可能性もある。さらにはオランダやスイスのように、近隣の人たちがそこに集うかもしれません。

河野

市ヶ谷キャンパスも、人の動きがだんだん活発になってきています。社会人向けプログラムが実施されたり、校友会をはじめ卒業生が来てくれたりする機会も増えてきました。そういう状況を追い風に、1/Mでいろんな仕掛けをつくっていけたらいいですね。

「NEW COMMONS」展 出展プロジェクト一覧

※クリックすると各プロジェクトの概要PDFが開きます

1/M(イチエム)

https://ichiemu.musabi.ac.jp/

「NEW COMMONS――ともにつくる学びの場 武蔵野美術大学の社会連携活動展」

https://ichiemu.musabi.ac.jp/2024/11/16827

北崎允子

きたざき・まさこ

武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業、デルフト工科大学 デザイン工学部 MSc. Design for Interaction修了。2019年〜現所属に着任。研究テーは、デザイン・造形活動を通じた人々・織・地域の間の参加と繋がりの促進による、創造的・持続的・倫理的な社会づくりの実践研究。た、地域や集団の文化・慣・特性に根付いた共創のあり方、多文化共生・多元的世界に寄与するデザインプログラムの探索を行う。主要な研究経歴は、市民の気象制御技術への参画とシチズンサイエンス2025年〜 内閣府ムーンショット型研究開発事業・目標8内「海上豪雨生成で実現する集中豪雨被害から解放される未来」研究開発項目9-3・PI)、市民共創でデザインする未来のパーソナルデータ利活用のあり方2022年2025年 トヨタ財団助成・プロジェクト代表者)、RTD アプローチによる高齢者のリソースフルネスのためのデザイン2017年2019年 オランダ科学研究機構助成・研究員)ど。

河野奈保子

こうの・なおこ

’05年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。在学中からNPO等市民活動や生涯学習領域に関心をもち、同学科研究室に勤務しながら小平市内の地域活動や学生の取り組みに関わる。研究室退任後、市民活動支援センター、NPO法人グリーズ、NPO法人soar等で創業支援や生涯学習講座の立ち上げ・運営を行う。

現在は武蔵野美術大学通信教育課程デザイン情報学科デザイン総合コースの非常勤講師、市ヶ谷キャンパス社会連携拠点1/M(イチエム)のキュレーター、同キャンパス内のインキュベーション施設「Ma」のインキュベーションマネーャー/コミュニケーターとして活動しながら、「生涯学習とデザイン」テーマに学びと実践を続けている。